シロツメクサ

sound by renka  – deep sorrow

 

甘い香りさえ漂うかのような草原。
2人でひた走った。

追いかければ逃げる。
追いつけばつかまる。

追いつけるような速さで、
そんな繰り返し……

 

「もう離さないよ」

彼が私を抱きしめ囁く。

 

私は、私の体に蔦のように絡まる腕の中で、
静かに頷いた。

 

「素敵な花を見つけたよ!」

そう、私は言いながら彼に見せた。

 

「シロツメクサ?」

「そうよ、ホワイトクローバー」
「これで、お花の冠作ればお姫様になれる?」

なんだか照れてしまって、
そんな事を言うが早く逃げる私。

繰り返される幸せな時間。

 

「イタッ!」

 

「どうした??」

彼が私のもとへ来た時には、
その毒牙持つ奴は逃げていた。

 

「早く病院へ!」

大きな彼の声が草原にこだました。

 

「ごめんなさい……」

 

—–

 

「どう?気が付いた?」

 

「ママ?パパ!……あなた。」

 

どうやら、あの時に私は、
気を失って崩れ落ちたようだった。

見慣れない白い壁に揺れるカーテンを見ながら、
少しずつ記憶の整理。

 

自分で自分を確かめる。

1つづつ、1つづつ。

それに、現実と心を重ねるのに時間がかかった。

 

「そう、思ったより場所が悪かったのね」

軸足となる右足の膝から下は何もなかった。

 

「大丈夫だよ!あの草原だって、また行こうよ!」

 

その言葉から、何日が過ぎただろう。
私は退院した。

 

—–

 

車椅子生活は楽しくなかった。
彼はいろいろとサポートしてくれる。
素直に嬉しかった。

ただ、都会では味わえない、シロツメクサ一面
そんな草原や自然を彼と巡るのが、私にとって
一番好きだった。

季節を越えて、草木が結晶の下に眠るころ。
私と彼には微妙な溝が出来かけていた。

 

「あなたになんか!私の気持ちわかるわけないっ!」

献身的な彼に対しての私のレスポンスはいつも、
ビードロガラスで見たように、言葉も歪んでいた。

 

「じゃ、少し行ってくるよ」

彼は仕事の都合で、一週間ばかりの出張。
特別に珍しくはなかった事。

 

ただ、意外と脆くなってる心をそれは認め。
ヒビが入った心からにじみ出るように溢れる
気持ちが、逆に突き刺さり痛い。

慟哭した。

 

—–

 

緑の息吹が感じられるほどに、時間が過ぎた。

 

甘い香りさえ漂うかのような草原。
2人でひた走った。

追いかければ逃げる。
追いつけばつかまる。

 

「あの草原に行きたいな……」

 

「そうだな」

 

少し郊外に出ようと、出発した「あの草原」は、
なかなか簡単にいける場所ではないのは知っている。

 

「ねぇ……」

 

「どうした?」

 

「沢山のシロツメクサを取ってきて欲しいの」
「ね、いいでしょ……あの匂いに触れたいの」

 

「うん、わかったよ。今度の休みの日に取ってくるよ」

 

「ありがとう」

 

—–

 

「もう離さないよ」

彼が私を抱きしめ囁く。

 

私は、私の体に蔦のように絡まる腕の中で、
静かに頷いた

 

あの気持ちにお互い嘘偽りはなくとも、
世の中には、難しく揺れる心がある事を知った。

 

「約束……か」

 

—–

 

今日は、何かと忙しい日になった。
彼が私のもとへ来た。

 

「シロツメクサの花の冠だぞ?」

「そうさ、世界で一番綺麗なお姫様だよ」

そう言い私の頭に被せ、彼が頬に優しいkissをくれた。

 

もしかしたら、私にとって最も微睡むようにとどまりたい時間。

 

「シロツメクサ。ホワイトクローバー。」

「私を想って……か。忘れないよ。」

 

そう、彼が彼自身に呟いたころ。

 

私は形を無くした。

 

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